借金の支払いが難しくなってきた時、あなたにとって、”この借金だけは何があっても支払わなければ…”というものがありませんか?
- 親が連帯保証人になっているこの借金だけは、
絶対に迷惑をかけられないから優先して返しておきたい - 車を取り上げられたら仕事に行けないから、
自動車ローンだけはなんとか払おう
借金の支払いに追い詰められたとき、誰しもが「どうしても守りたい支払い」を優先しようと考えます。 しかし、弁護士に依頼して個人再生や自己破産を検討している段階で、特定の業者や個人にだけ優先的にお金を返す行為は、絶対にやってはいけません!
この特定の相手にだけ偏った返済をする行為を、法律用語で「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と呼びます。
よかれと思ってやった偏頗弁済が原因で、個人再生で返済する総額が数十万円〜数百万円も跳ね上がってしまったり、自己破産で借金がゼロにならなくなってしまったりするという非常に恐ろしいペナルティが発生します。
今回は、なぜ偏頗弁済が禁止されているのか、やってしまった場合のペナルティの仕組み、そして「支払ってもOKなもの・NGなもの」の境目を、アーク法律事務所の弁護士鬼頭が分かりやすく解説します。
なぜダメ?「特定の相手だけに返す」のが禁止される理由
偏頗弁済が固く禁止されている理由は、法律上の「債権者平等の原則」というルールがあるからです。
少し想像してみてください。
もしあなたが誰かにお金を貸す立場だったとして、借りた本人が「他の業者には一銭も返さず倒産するけれど、知り合いのAさんにだけは全額返します」と言っていたら、どう思うでしょうか?
「そんなの不公平だ!自分にも平等に返してくれ!」と怒りたくなりませんか?
裁判所を通じた債務整理(個人再生や自己破産)は、国が借金を大幅に減らしたり免除したりする強力な手続きです。
だからこそ、特定の個人的な事情(親だから、お世話になったから、車が必要だから等)だけで一部の債権者だけを優遇することを許さず、すべての債権者を公平に扱うことを義務付けているのです。
偏頗弁済をしてしまった場合の恐ろしいペナルティ
もし弁護士に相談する前や手続き中に、良かれと思って偏頗弁済をしてしまったらどうなるでしょうか。
個人再生と自己破産では、それぞれ以下のような厳しいペナルティを受けることになります。
① 個人再生の場合:返済する総額が増えて大損する!
個人再生では、最終的に支払う返済額(最低弁済額)を決める際、「債務額から計算される減額後の金額(最低弁済額)」と「保有しているプラスの財産の合計額(清算価値)」を比較して、金額が大きい方を支払うというルールがあります。
もし、偏頗弁済(例:親の借金50万円を優先して返済した)が発覚した場合、その支払った50万円は「手元に残っていたはずの財産」とみなされ、清算価値にそのまま丸々上乗せされることになります。
■通常の返済額
800万円の5分の1である「160万円」
■偏頗弁済をした場合
清算価値に50万円が上乗せされるため、返済額は「210万円(160万+50万)」に増額!
つまり、返済を減らそうとして個人再生をしたのに、偏頗弁済をした金額分だけ、結果的に自分自身が毎月支払う返済総額が増えて大損してしまうことになります。
② 自己破産の場合:同時廃止で済んだはずが「管財事件」になり、最悪免責も下りない!
自己破産で偏頗弁済をしてしまうと、本来なら費用も安くスムーズに終わるはずだった「同時廃止」で解決できたものが、裁判所の手続きが厳しい「管財事件」になってしまいます。 これにより、裁判所に納める予納金(約20万円〜40万円)が余分に発生してしまいます。
さらに恐ろしいのは、「お金(予納金)を払って管財事件にすれば大丈夫」とは限らないという点です。
悪質な偏頗弁済と判断された場合、破産管財人によってその返済自体が取り消され、相手から強制的にお金を回収(否認権の行使)されたり、最悪の場合はいくら予納金を払っても借金をゼロにしてもらう「免責許可」が下りなくなるリスクすらあります。
これって偏頗弁済?「支払ってもOKなもの」と「ダメなもの」
- 特定の人や会社に返済等をした
- 支払い不能になってからの行為であること
- 裁判所への申立てをした後の行為であること
- 債権者側が支払い不能状態であることを知っていた場合
これらに該当する場合は、偏頗弁済と判断される可能性があります。
偏頗弁済の判断基準は
返済不能と認識してからの返済を指します。
〇 支払っても問題ないもの(生活に必要な費用)
・家賃・地代
・電気代・ガス代・水道代
・携帯電話・スマホの月々の通信料・通話料
✕ 偏頗弁済になってしまうもの(絶対に払ってはダメなもの)
- 親族・友人・知人からの借金の返済(※一番やってしまいがちなので注意!)
- 自動車ローンの返済(※車を残したくても勝手に払ってはダメです)
- 特定のクレジットカードの返済
- スマホ端末の「本体代金(分割割賦金)」
※スマホ端末の分割払いにご注意ください! 携帯電話の「通信料」を払うのはOKですが、毎月の携帯代と一緒に「スマホ端末の分割代金(割賦)」を払ってしまうと、それはローン(借金)の返済とみなされ、偏頗弁済として扱われるリスクがあります。機種変更直後などは特に注意が必要です。
どうしても特定の借金を完済したい場合の解決策
「どうしても親に迷惑をかけたくない」「個人的にお世話になった人だけにでも返したい」という場合は、以下の正しい法的な手段を取りましょう。
① 「第三者弁済(だいさんしゃべんさい)」を利用する
偏頗弁済にならない支払い方の代表的なものは、第三者による支払いです。
これを第三者弁済と言い、
あなたの財布(自分の給料や預貯金)から返すのはNGですが、あなたと生計を別にする親族や友人が、その人の自分のお金で直接その債権者に立て替えて支払うこと(第三者弁済)は法律上認められています。
※同一生計の人は対象となりません。
② 手続きが完全に完了した後に、任意で返済する
自己破産・個人再生手続きの完了し、裁判所から免責許可・認可決定をもらった後に、返済する場合は問題視されることはありません。
例えば、自己破産手続きをして、裁判所から免責許可が下りると、すべての借金は帳消しとなります。
ですが、個人から借りたお金には罪悪感が残る場合があります。
その場合には、あなたの意思で手続き後であれば返済することが可能です。
自己破産で免責許可が出た後、あるいは個人再生の返済がすべて完了した後に、あなたの自由な意思で「お世話になったから」とお返しすることは自由です(これを任意返済と言います)。
ただし、手続き中に「終わったら必ず返すからね」と事前に約束(約定)することは禁止されています。
まとめ|勝手な判断で支払う前に、必ず弁護士に相談してください
偏頗弁済は、借金で困っている人が「誠実でありたい」「周りに迷惑をかけたくない」という優しい気持ちから、ついついやってしまいがちな行動です。
しかし、法律のルールを知らずに自己判断で動いてしまうと、結果として自分自身の手続きを不利にし、大切な家族や周りの人にも余計な迷惑をかけることになってしまいます。
- 支払いが苦しくなったら、どの返済も勝手に進めず一旦ストップする
- 生活費(電気水道ガス・家賃・通信料)の支払いはOK
- 特定の相手に返したいなら、自分で払う前に弁護士に相談する
法律は意地悪で偏頗弁済をダメと言っているわけではありません。
すべての債権者に公平であり、そして何より「あなたが安全に借金から抜け出すため」方法として、このルールを設けています。
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