- 自己破産(個人再生)の手続きを進めている真っ最中なのに、不運にも交通事故に遭ってしまった
- 加害者の保険会社から治療費や慰謝料として示談金が支払われると聞いたけれど、このお金は裁判所に没収されてしまうのだろうか?
好き好んで事故に遭う人など一人もいません。ただでさえ自己破産という人生の重大な局面で大きな精神的プレッシャーを抱えているときに、予期せぬもらい事故でケガまで負ってしまう。その恐怖と肉体的な痛み、そして「お金まで奪われるのか」という気持ちの交錯は計り知れないものです。
結論から申し上げます。
交通事故の示談金(損害賠償金)が没収されるか、それとも1円も引かれずに全額あなたの手元に残るかは、「保険金が振り込まれた日」でも「示談が成立した日」でもなく、【事故に遭ったその瞬間】が「破産手続開始決定(再生開始決定)」の前か後か、という紙一重のタイミングで決まります。
今回は、具体的な一つの例題をベースに、自己破産と交通事故の示談金を巡るシビアな法律のルールと、不運に見舞われたあなたのために弁護士ができる「最大の防衛策」を、アーク法律事務所の弁護士鬼頭が分かりやすく解説します。
※自己破産を中心に展開していきますが、個人再生でも同様ですので、個人再生の手続き中の方もお読みください。
【例題】脇見運転の車に轢かれて全治1ヶ月、示談金が100万円の場合
分かりやすく考えるために、次のような具体的なケースで考えてみましょう。
この大切な100万円は、一体どうなってしまうのでしょうか? 注意しなければならないのは、この「100万円が口座に振り込まれた日」や「保険会社と示談書を交わした日」は、法律上は1ミリも関係がないという点です。
カギを握るのは、裁判所が正式にあなたの自己破産手続きの開始(受付)を宣言した「破産手続開始決定」の時刻と、「ガシャンと事故に遭ったその瞬間」の前後関係だけです。
運命の分かれ道はいつ?区分される「破産手続開始決定」の時刻
自己破産の手続きでは、裁判所が開始決定を出した、まさにその瞬間にあなたが持っている財産が、お金に換えられて債権者(業者)へ配当される対象(破産財団)になります。
法律上の最大の注意ポイントは、財産には現金や車だけでなく「お金を請求できる権利(損害賠償請求権)」も含まれるという点です。この権利は、事故に遭ったその瞬間に発生します。
そのため、先ほどの「全治1ヶ月・示談金100万円」の運命は、決定書に記載されている「〇時〇分」という時間との戦いになります。
事故に遭う(100万円の請求権が発生) ➔ その1分後に開始決定が出る
➔ 開始決定の時点で「すでに存在していた財産」とみなされるため、原則として100万円は全額没収(配当対象)となります。
開始決定が出る ➔ その1分後に事故に遭う(100万円の請求権が発生)
➔ 開始決定の「後」に新しく手に入れた財産(新得財産:しんとくざいさん)とみなされるため、国に没収されることは一切なく、100万円全額があなたのものになります。
あなたがどんなに痛く苦しい思いをしたとしても、事故の瞬間が開始決定よりわずか1分でも前であれば、法律上は「破産手続きで処分すべき財産」になってしまうという、非常にシビアな現実があります。
「個人再生」の場合も理屈は同様
ここまでは「自己破産」のケースで解説してきましたが、家や財産の処分をしないメリットがある「個人再生」でも、全く同じ理屈が適用されます。
個人再生の場合は、裁判所が手続きのスタートを宣言する「再生手続開始決定」の時刻が運命の境界線になります。
もし、開始決定の「後」に事故に遭ったのであれば、100万円の示談金はあなたのものになり、これからの返済額や清算価値にも影響することはありません。
しかし、事故に遭ったのが、開始決定の「1分前」だった場合、その100万円の示談金(請求権)は、あなたの今現在の「財産」として丸ごとカウントされてしまいます。
つまり、申立てまでに出していた清算価値に、この示談金の100万円が上乗せされてしまうので、個人再生の減額率を大きく変えてしまうことになります。
開始決定「前」の事故でも100万円を残す弁護士の知恵
「事故に遭ったのが開始決定の前だった……。じゃあ、私の100万円は全部配当されて終わりなんですか?」と絶望する必要はありません。ここからが私たち弁護士の知恵の見せ所です。
たとえ開始決定前の事故であっても、100万円の中身を細かく仕分けることで、合法的にあなたの手元に残せる可能性が残されています。
①「治療費の実費」は没収されない
100万円の中に含まれる、実際に病院に支払うための「治療費」や「手術代」などは、これからケガを治すための実費です。これが没収されては治療が受けられなくなってしまうため、没収の対象からは外されます。
②「自由財産の拡張」を申し立てる
法律では、自己破産をしても個人の最低限の生活を守るために「99万円までの現金」などは手元に残せるルール(自由財産)があります。
あなたが事故で負った精神的・肉体的な苦痛に対する「慰謝料」や、仕事を休んだ分の「休業損害」については、弁護士が裁判所に対して「これは破産者の今後の生活再建や体調回復にどうしても必要な生きるためのお金です」と強く主張し、自由財産の拡張という特別な許可を得ることで、没収を免れて手元に残せるケースがあります。
まとめ|不運な事故も弁護士と最良の道を探していこう!
手続き中に交通事故に遭ってしまった場合、最もやってはいけないのは、パニックになって弁護士に内緒で保険会社と勝手に示談書を交わしたり、お金を受け取って隠してしまったりすることです。
これをやってしまうと「重大な財産隠し」とみなされ、最悪の場合、借金をゼロにしてもらう破産手続きそのものが一発で失敗(免責不許可)になってしまいます。個人再生も同様です。
事故に遭ったら、まずは何よりも先に、あなたの破産手続きをよく知る弁護士へ「事故に遭ってしまった」と正直に連絡することが、あなたとご家族を守る安全な選択です。
あなたが痛い思いをして勝ち取るべき100万円の示談金が、タイミングの悪さだけで機械的に没収されてしまうなんて、僕もひとりの人間として絶対に納得がいきません。法律の壁は確かに厚いですが、あなたの治療費や慰謝料を1円でも多く手元に残すために知恵を捻り尽くすことこそが、僕たち弁護士の本当の存在意義であり、腕の見せ所だと思っています。
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