自己破産や個人再生は「将来もらえるはずの退職金」まで没収されてしまうの?
- 将来もらえるはずの退職金はどうなってしまうの?
- まだ会社を辞める予定なんて一切ないのに、退職金の書類を裁判所に提出しなければならないって本当?
債務整理を検討する中で、多くの方がふと不安になるのが「退職金」や「会社の年金」の取扱いです。まだ受け取らない未来のお金なのに関係あるの?と思いますよね。
結論から申し上げます。
まだ会社を辞める予定がない場合であっても、退職金はあなたの「現在の財産」として裁判所に報告する義務があります。ただし、全額が没収されるわけではなく、大半(原則として8分の7)はしっかりと手元に残すことができます。
また、近年増えている「確定拠出年金(iDeCoなど)」については、法律によって完璧に守られているため、自己破産をしても1円も減らされることなく、そのまま全額残すことが可能です。
今回は、退職金が手続きに影響する仕組みと、退職する時期ごとの計算ルール、そして会社に怪しまれずに書類を用意する実務上の裏ワザを、アーク法律事務所の弁護士鬼頭が解説します。
辞める予定がないのに、なぜ「今現在の退職金」が問題になるの?
「定年まであと20年以上あるし、今すぐ会社を辞める気なんてないのに、なぜ退職金のことを言われなきゃいけないの?」と疑問に思うのは当然です。
自己破産や個人再生の手続きにおいて、裁判所は「もし今日、あなたが自己都合で会社を辞めたとしたら、退職金はいくら支給されるか(退職金見込額)」を、あなたの今現在の立派な財産としてカウントすることになっています。
なぜなら、債務整理をするということは、本来返してもらえるはずのお金を諦めなければならない債権者(業者)がいるため、裁判所としては「今現在のあなたの財産を正しく把握し、少しでも公平に配当するベースを作らなければならない」という法律の厳格なルールがあるからです。
そのため、20代の若い方であっても、勤続年数が1年目の方であっても、「退職金をもらう見込みがある人全員」に報告の義務が発生します。
ネット上の古い解説などで「勤続5年未満の正社員は報告不要」などと書かれていることがありますが、これは明確な誤りです。アーク法律事務所の実務でも、1年目の方からすべての方にきっちり提出していただいています。
あなたはどこに当てはまる?退職の時期で変わる「対象の割合」
退職金が実際にどのくらい手続きの影響を受けるのかは、「あなたが今、退職する瞬間にどれくらい近いか」によって、法律上の扱いがガラリと変わります。以下の3つのパターンから、ご自身の状況をチェックしてみてください。
①今後も会社に勤め続ける場合(退職がかなり先の話)
法律上のルール
退職金見込額の「8分の1」だけが財産としてカウントされます。
自己破産の場合
自己破産では、20万円を超える財産を処分してお金に換えるルールがありますが、退職金の場合は「8分の1にした金額が20万円を超えるかどうか」が境目になります。つまり、現時点での退職金見込額が「160万円」以下であれば、手元から1円も出す必要はありません。 もし160万円を超えた場合は、超えた分の「8分の1」の現金をどうにか用意して裁判所に納める必要があります。
個人再生の場合
「8分の1」の金額がそのままあなたの清算価値(自分の財産の合計額)にプラスされます。その分、手続き後に毎月分割で返していくことになる借金の総額が少し増える可能性がありますが、家や退職金の権利が奪われることは絶対にありません。
②すでに退職金を受け取っている、または退職が間近な場合
すでに受け取った場合
手元にある退職金は、未来の予定ではなく「ただの現金・預貯金」という扱いになります。
そのため、自己破産・個人再生のどちらの手続きにおいても、全額が財産(清算価値)として丸ごと計上されます。
退職(定年など)が数年以内に決まっている場合
近いうちに確実にお金が入ってくる状態のため、自己破産では裁判所の指示で割合が「4分の1」などに引き上げられることがあり、個人再生では(主に3年以内の退職の場合)原則として「全額」が清算価値に計上されることになります。
※なお、個人再生は「今後も安定した収入があること」が前提の手続きです。定年退職間近な方は対象になりますが、若い方が「無職になる前提」で近い時期に退職するケースでは、そもそも個人再生の手続き自体が使えなくなるため注意が必要です。
③そもそも勤務先に退職金制度がない場合
パート、アルバイト、派遣社員の方や、退職金制度のない会社にお勤めの場合は、当然ながら対象となる財産は「ゼロ」ですので、何も影響はありません。
ただし、裁判所に対して「私の会社には退職金制度がありません」と証明するために、雇用契約書や就業規則のコピーを提出する必要があります。
会社に怪しまれずに「退職金見込額証明書」をもらう裏ワザ
裁判所に報告するためには、会社から「退職金見込額証明書」という書類を発行してもらうか、就業規則の退職金規定のコピーを用意する必要があります。
しかし、会社に「退職金の証明書をください」なんて頼んだら、借金で首が回らなくなって会社を辞めるんじゃないかと怪しまれるのでは?と恐怖を感じ方は非常に多いです。
そんな時は、実務上、以下の言い訳を使って会社に申請するのが最も安全です。
「今度、住宅ローンを組むことになりまして、銀行の審査で『退職金の見込額がわかる書類』を提出してほしいと言われたので、発行をお願いできますか?」
確定拠出年金(iDeCo)や共済金は「1円も減らずに全額残せる」
最近では、従来の退職金制度に代わって「確定拠出年金(企業型・個人型iDeCo)」を取り入れる企業や個人が爆発的に増えています。
「退職金が対象になるなら、私が毎月コツコツ積み立ててきた確定拠出年金も、自己破産したら全部没収されて消えてしまうの?」と思われている方、どうぞご安心ください。
法律(確定拠出年金法32条1項)において、確定拠出年金は「差押禁止財産」と明確に定められています。
国が「どんなことがあっても、このお金だけは国民の最低限の老後を保障するために絶対に差し押さえてはならない」と決めている財産です。
そして破産法でも、「差し押さえが禁止されている財産は、自己破産をしても処分しなくてよい」と連動しています。
つまり、自己破産をしようが個人再生をしようが、あなたが積み立ててきた確定拠出年金には指一本つけられることなく、将来のために100%そのまま手元に残すことができます。
同じように、法律で守られて「全額残せる」代表的な制度は以下の通りです。
- 中小企業退職共済制度(中退共)
- 小規模企業共済制度
- 確定給付企業年金
- 厚生年金基金、公務員共済など
これらはすべて、どれだけ借金が膨らもうと、自己破産しようと、あなたの大切な未来を守るために1円も減らされることはありません。
まとめ|未来の不安をなくし、正しい知識で再スタートを
将来の退職金や大切な年金がどう扱われるのか、正しいルールを知ることで、頭の中のモヤモヤが晴れたたのではないでしょうか。
一番もったいないのは、「退職金が全部没収されて会社にも居づらくなるかもしれない」という間違ったネットの噂を信じ込み、誰にも相談できずに一人で借金の取り立てに怯え続けることです。
あなたが働いている会社の制度(退職金なのか、確定拠出年金なのか)を細かくお伺いし、法律のルールに則って、あなたへのデメリットが最小であり、借金問題が円滑に解決できる方法を一緒に考えますので、どうぞご安心ください。
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